ポセイドン

 潜水艦と客船は違う。


 06年に公開された、72年の傑作パニック映画『ポセイドン・アドベンチャー』のリメイク作品。『ポセイドン・アドベンチャー』は、テレビ地上波で何度も放映されているから、若い人でも見た方は多いのではないだろうか。 大予算をかけた、海洋パニック映画で洪水のような大量の浸水、逃げ惑う多数の乗客たち……。逆さまになった客船セット内で、出口を求めて主人公たちが奮闘する話だ。だがこの映画の最大の欠点はリメイクを選択したという時点で、何をやろうとも完全に負け戦確定になってしまう点だ。傑作だったオリジナル版は、古すぎて今になって見ると映像がチープだという印象も無いし、その気になれば簡単に観賞することが出来る。おそらくこれは「「Uボート」、「パーフェクト・ストーム」、「トロイ」の海洋シーンを撮ったペーターゼンが「ポセイドン・アドベンチャー」のリメイクを最新技術を駆使して撮る。もしかしたら「タイタニック」級のヒットになるかもしれない」という前提条件がスポンサーへの説明で必要だったのだろう。「実績のある監督が実績のある映画のリメイクを作る」は確かにそそられる。ハリウッドだってその気になるだろう。 一方、ペーターゼンが「タイタニック」を冗長すぎると感じていたのは明らかである。実際私も「タイタニック」の前半は退屈と思うくらいじらされた経験から言うと正しい。とはいえ、そのことが一つの作品として物語を語る上で貢献しているかというと、実は疑問があるというのが「ポセイドン」の難しいところだ。

  マトモに勝負をしてもオリジナル版には敵わない以上、ペーターゼンは、「ポセイドン・アドベンチャー」から高く評価される最大の要因であろう人間ドラマ+テーマ性の部分を、このリメイク版ではバッサリと切り捨てて、次から次へとハプニングが登場人物を襲い、それを必死にクリアしていくという、脱出アクションに特化した内容に仕立て上げた。要は、「どんな人物であろうと、どのような人間関係があろうと、大きなパニックが発生したらそんなの関係ねえ、全て吹っ飛んでしまうのだ」と。ラムジーが元市長で投げ出す形で辞職しているとか、クリスチャンとジェニファーの恋愛関係とか、そんな余計な部分はできるだけ取り去り、いきなりアクションに入っている。「タイタニック」では船が氷山と衝突するまで延々2時間近くかかっていたものが、「ポセイドン」では必要最小限の人物紹介が終わると、すぐに大波が船を襲う。その間、わずかに15分くらいである。 それも地下で海洋火山が蠕動して、とかの前振りや思わせぶりのような理由付けがあるわけではない。船長がふと顔を上げると波がもうそこまで迫っていたという感じで、本当にいきなり、ほとんどあっけないくらいの感じで大波が起こり、そして船を襲う。この手の娯楽大作はどんなに細部を詰めたとしても必ず粗が出ると腹を括って、とにかく圧倒的物量のスペクタクルで攻めまくるペーターゼンを断固支持するし、主人公たちが助かったらトットと映画を撤収する見切りのよさも“ヤりにげ感”満載で潔い。

 パニック映画の主人公というのは通常、ヒューマニズムに溢れており、人々を助けようとするヒーロー的な存在に設定されている。だが、今回の主人公ディランは、自分が助かるためだけに行動を開始する。他の面々も同様で、自分のことしか考えていない。だから、残っている人々に「ここは危険だから脱出を図ろう」などと呼び掛けたりはしない。前作が面白かったのはそのパニック的な設定もさることながら、生き残って船尾を目指す登場人物らが生死の境に直面しながらもさまざまな選択をし、いがみ合いながらも協力して生き延びようとするそのドラマ性が白眉であった。神父である主人公がその絶望的な状況で神をも呪いながらも、それでも命を賭けて他の生存者を救おうとする場面などもう名場面としか言い様がなかった。しかし、今作にはそれがなく自分勝手なキャラばかりで心を動かされることが皆無に等しい。これでは観客は登場人物に感情移入しにくい。要するに、すぐにアクションに移行して観客の興味を持続させようとした狙いが裏目に出ているのだ。 これが「Uボート」ならば乗員は全員ドイツ海軍の軍人だから特段問題なかったのだが、いろいろな客が乗船している客船ではその手はNGだ(船長が生きている以上、乗員および乗客は船長の指示に従う義務があるが、いろいろな客が乗船しているため船長の指示を素直に聞くとは限らないという点に意味がある)。人間ドラマは冗長すぎてもいけないが、必要な部分は描かないと観客の共感が得られない。

 この前のNBCのテレビ版「アポカリプス」では地震のせいで大波が盛り上がってから船を襲うまでかなりの時間がある。それまでに船側でも事態に気づき、波を避けようと右往左往したり、波が徐々に船に近づいてくるというシーンが描かれる。超ロングでほとんど点景にしか見えない船に遠くから波が近づいてくる。最初は乗客の誰もそれに気づかない。だんだん近づいてくる波を移動撮影! で波と共にカメラが横移動していく。もちろんCGであり、正直ハリウッド一線級のCGと較べると多少劣るが、それでも充分な効果を出していた。そして波が船を直撃する瞬間には、波が船の窓を圧し破る。常套っちゃ常套であるが、「タイタニック」で船長室の窓ガラスを突き破って海水が浸入してきた瞬間や、ヒッチコックの「海外特派員」で、やはり海に墜落する飛行機の窓を海水が圧し破った瞬間のエキサイトメントを考えると、ここは「ポセイドン」でも、船内から見た大波が襲ってくる瞬間というのが見たかったと思う。 だが、ペーターゼンとしては、波が徐々に押し寄せてくるシーンをロングでとらえて徐々に盛り上げるというのは、彼自身が既に「パーフェクト・ストーム」でやっているからまた同じことを二度やることは、彼のプライドが許さなかったのだろう。それでも今にも全員死にそうな状況だというのに、主人公の海上保安官が呑気にケータイで女にプロポーズしているどこかの国の海難映画とはワケが違う。

 ・・・リメイクじゃなかったらいい映画だったと思うんだけどね。

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