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zoom RSS 日本の水産業は終わった27

<<   作成日時 : 2011/10/03 00:11   >>

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 その前にアンタが大丈夫か。


 横国大のM先生から三重大のK先生の「日本の魚は大丈夫か」を薦められた。どうやら書評を書けということらしい。読み進めていくといつものように日本の漁業の歴史、問題点、海外の成功例などを俯瞰的にかつわかりやすく書いている。ただし素人相手であればという但し書きが付くが。漁業資源の管理、小さい魚のうちにはとらないで、親魚になるまでとってから捕獲、そのためには、今の漁場だけを決めて早い者勝ち、ごっそり幼魚からなんでもとるという方式から、漁船ごとに、一定の重要の捕獲枠をきめる方式に転換することを提案している。以前、2007年2月、日本経済調査委員会に、当時農林漁業金融公庫総裁で農水省時代に事務次官も務めた高木勇樹を委員長とする『高木委員会』から抜本的な農業改革を提言する報告書と共に、水産業に対しての提案の中間報告がだされたことがある。要は早い者勝ち方式(オリンピック制度)に代え、個別漁業枠(IQ)制度を導入することにより、漁業資源を回復して、儲かる漁業に変えるということにある。これをベースに本書で彼が復興を眺めると下記の青字部分が主張なのだろう。だが小生は下に書いてあるようにその主張には大いに疑問がある。

1.被災地支援特別キャッチシェア制度(個別漁獲枠制度)の導入

 常磐・三陸沖の乱獲の主役は、日本各地から集まってくる大型の巻き網船団なので、壊滅した地元の漁船よりも連中に対して先に規制をかけないと意味がない。漁獲当たりの利益の高い漁業者、経営体に漁獲枠を集めることで、大規模化させ、経済的に有利で効果的な漁業をすることができるというのであれば、地元漁民よりも大型の巻き網船団連中に集約したほうが良いという話になってしまう。もっというなら中国か韓国の漁船に操業させて買い付けてくれば良いことになる。その結果、休業による努力可能量の削減は、操業日の操業時間の延長、さらには夜間にも操業するなどのピストン操業によって、簡単に埋め合わせられ、減船は、合理化と称して大型の巻き網漁船を作ることによって埋め合わされ始めている。資源の持続性、漁業の持続性、流通の持続性、消費の持続性は同根であって、乱獲だけではなく、乱売、乱食も関与している以上、そちらも問題にしなければならない。唯一資源管理に成功した秋田県のハタハタ漁は漁業者の全面禁漁と、水産庁による厳密な漁獲努力可能量の設定という努力は認めるが、その前に資源の回復期のタイミングの見事な一致という、環境との相乗効果と言われている。逆に言えば漁業者と水産庁が心を入れ替えて明日から資源回復のためにどんなに努力しても海水温が数度上昇しただけで魚がいなくなる可能性すらあり得る。  

2.重点漁港の選定

 これも放送大のK先生が指摘していることではあるが、全漁港が壊滅した以上、現在の国家財政の状態で、ゼロからすべての漁港を元に戻すのは、非現実的である。そうなると必然的に漁港集約を図らなければならないが、それは魚に付加価値のつけられる(=後方の加工冷蔵設備のある)拠点漁港に限定される。だが水産業は、地域によって特色や強みが異なるはずである。当然のことながら選定から外された漁港の漁民からは「これでは生活できない」と不満や猛反発を受けるだろうが、少なくともこれに触れるのであれば、重点漁港にリソース(人、設備、資金)を移動してもらう必要があるが、山の上への移住すら難色を示す連中が他の地域へ移住しろという話を聞くだろうか。私はとてもそうは思わない。これまでの漁業改革がさんざん叩き潰されてきたのはいみじくも「漁業者の経営事情等を考慮に入れる」からなのだが。日本の資源管理は需要だが、たとえば中国沿岸部の埋め立て、富栄養化、東シナ海・黄海・渤海での乱獲によるマイワシの根絶により、マイワシが餌としていたプランクトンが増大し、それを餌にしているクラゲが増えるという食物連鎖が原因なので、生態系の多様性と保全に配慮し、かつ温暖化による海洋大循環のリズムの変動による魚種交代理論にも目を向けなければいけない。これは漁港集約やフィッシャリーナで解決する問題ではない。

3.地域水産復興評議会の設立

 今回の災害は、被害が大規模かつ深刻なので、民間が独力で復興をするのは、困難であるという意見には異論はない。地方自治体の取り組みでも、限界があるのも確かだ。だが、ここで国がイニシアチブを発揮せよと主張しているのに次の段で「国のトップダウンでは、地方のニーズに応じた、細やかな計画をつくることは不可能。地域の特色を生かした細かいプランニングは、地方の当事者にしかできません」というのはどういうわけか。地元の水産関係者(漁業者、加工業者、冷蔵業者、小売業者、行政)が集まって、復興計画を議論する場を設けても今の水産庁と漁協の姿勢では「なんでも反対」になるのは目に見えている。残念ながら海ごみ対応で上記相当の評議会を作って水産業改革よりよほどハードルの低い海岸漂着物処理でさえ合意形成に難渋した経験を持つ小生には「机上の空論」と言わざるを得ない。もともと日本の漁業は、漁村単位のコミュニティーで運営されていたことが今の漁業権問題の元凶なのだが。既得権益排除には第三者の視点が必要であり、上記のメンバーのいったい誰が「我こそは第三者なり」と胸を張って名乗れるというのか。やるべきは「評議会の設立」などではなく「不適合業者の市場からの排除」を目指すべきだろう。金融や電気にできて水産にできない理由はない。

4.地域水産業復興特別公社(5年間の時限対応)

 仮に地域の特色を活かした復興を地元も評議会が主導で計画し、それを国がバックアップするというビジョンが描けたとしても、明日からすぐに商売をはじめて利益が出るわけでもない。震災後の供給停止ですでに外国産の水産物が多数輸入されている。水産業の復興に専念してもらうためには、生活の安定が不可欠なので地元としては国有化を望んでいるようだが、安易な国営化は銀行の不良債権処理でもあったように内部留保を溜め込むだけの組織になってしまう。下手に永続化なんかしたら新たな利権の温床になってしまい、今の漁協のシステムが維持されるだけに過ぎない。またわずか5年の時限ではその時点ではまだ赤字の可能性が高いが、問答無用で元に戻すのならば2.にあるように最初から体力のある漁協や加工企業に集約しろという話になる。漁業部門、加工部門、流通部門の垂直統合をしたところで、スーパーでは輸入肉の方が魚より安いという厳然とした事実がある以上、給料のこれ以上増える見込みのない家計で食費を出来るだけ安くすませようと思ったら、晩ご飯のメニューは確実に肉になるだろう。ここに魚の入る余地はない。

5.漁業の未来を担う人材の育成

 水産公社の使命は、これからの地域の基幹産業としての水産業の骨組みをつくることである以上、「東北地方の漁業を地域の基幹産業として復興・再生する」という前提条件が必要不可欠になるが、私は上記の理由でスーパーでは輸入肉の方が魚より安いという厳然とした事実がある以上、「東北地方の漁業を地域の基幹産業として復興・再生する」ことよりも「食料の安定供給確保」が優先されるべきであり、その大目標からすれば「東北地方の漁業再生」ははるか下位になる。5年後、10年後の漁業の担い手を育成する前に水産公社が消えてはダメだろう。これまで水産業に従事していた人たちの雇用の受け皿が必要なのであれば、中長期的に地域経済を支えていけるような産業にこそ、公的資金を投資すべきであり、漁業はその産業足り得ない。現状で十分機能している漁協が大分の姫島漁協ぐらいしかないことを思えば、既得権最重要視の漁協が新規組合員を勧誘するような場所は「経営状態に何らかの問題がある」と見るのが順当だろう。漁業就業フェアでこれ以上詐欺に近い勧誘を誰が許容するというのか。

6.改革か、消滅か。今が水産業の分かれ道

 望月賢二氏の『東京湾再生計画』を読むと「戦後の社会発展に伴う負の遺産の蓄積の結果が今の東京湾で、社会の在り方の全面的見直しが不可避であるというものである。この作業過程で、(1)東京湾問題の最重要原因である『社会の在り方』とそれを誘導した国の政策と、(2)陸の変化は水・土砂循環系を通して海に影響するという当然のことが、専門書ですら議論や指摘が避けられているのを再確認した。これこそが最も深刻かつ重大な問題なのである」というくだりがある。これからすれば、一番真っ先に改革すべきは水産関連の学会ということになるが、まるで出来ていない。事故発生以来、海に流出したヨウ素131、セシウム134、セシウム137の総量は、これまでの推定の3倍を超える1万5000テラ・ベクレルにのぼるが、これが今後、汚染された海域で捕獲される魚介類にどのような影響を及ぼすかは、今のところ判らないのだが。それを海洋学会が発表し続けているのは水産関連の学会としては自身の在り様として問題視すべきではないのか。スーパーの鮮魚コーナーで、サンマの漁獲場所が書いてあるような現状をどう思うのか(水産物のトレーサビリティーがなっていない何よりの証拠)。もうすでに外国の魚で代替されている部分がある。これを再度シェアを奪取しようというのは至難の業だ。

7.おまけ

 6章の「水産物の放射能汚染について最低限知っておきたいこと」はあまり評価しない。比較的客観的に書かれている(いろいろな立場を紹介している)方だとは思うが、「理系研究者のツイートの内容を、ソースまで辿って吟味できる一般人が、どの程度いるかという言い草には同調できない。「一般の人が、自分の頭で判断できるところまで、技術的な問題をかみ砕くのが専門家の役割。そこから先の結論を決めるのは、当事者である」というのなら、それに対して判断に至った説明責任が生じるが、リスクについての調査、情報整備、提供までは「専門家」や行政のやる仕事であるのに責められるのは行政のみになる。定量測定にデータ捏造があるとはあまり思わないが、試料選択のときに恣意(さらには思惑)が入っていることを否定できない。だから、安全管理に関わる学者には、「大小を問わず事故が起こった場合、予見と警告が不十分だった場合には、刑事告訴を含めたペナルティーが科せられる」「在野・海外からの批判、指摘に対して回答する義務を課し、虚偽や論理性に欠ける回答をした場合には、解任を含むペナルティーが科せられる」などといった、厳しい縛りをかける必要がある。それは自分を守ることにもつながる。6月に小笠原諸島がユネスコの世界遺産に選ばれたのも、規制をかけて管理することで、価値が生まれた結果である。規制がなければ、ホテルやら観光施設やらが乱立して、世界遺産にはならなかったかもしれない。

 私は漁業資源管理は水産業の漁業資源の持続的利用可能化(儲かる漁業)ではなく環境保全のための(守る)漁業でなければならないと考えている。水産出身者には環境保全の意識が足りないので、資源管理をするならば以下の観点が必要だろう。
 
1)海洋生態系全体を考えての多国間での漁業資源管理の必要性
2)地球温暖化対策としての漁業資源管理の必要性
3)レジームシフトによる新たな魚種交代理論と漁業規制


 ・・・GPのいうように海洋保護区(MPA)50%をかければあっという間に資源回復するが。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
失礼します。
場所が場所なので端的に。

環境保全型漁業は私も同じ考えで、養殖を営むとあからさまに理解できます。理由は密殖と成りうる原因、要因。
で、三重大の?方に回答をえられなかったのですが、個別漁業枠などに関しては漁業権や民法とどう向き合うか?と感じてますが…

なのに私は今、漁師を目指す暴挙w
ton
2011/10/03 06:25
>個別漁業枠などに関しては漁業権や民法とどう向き合うか?

 漁業権はあくまで排他的に漁業を営む営業権であり、補償金は民法上の(当事者の合意によって設定される)約定担保物権であるという点ですかね。この質問は勝川氏よりも法律の専門家たる放送大の来生氏の方が適任です。

>環境保全型漁業

 これも問題があって日本の漁業が衰退した原因を遠洋、沖合、沿岸、養殖を分けずに議論している上に、漁船漁業と養殖の免許間の序列についてあまり言及していないんですよね。「儲かる漁業」では「環境に負荷をかけている」という点は程度問題の差でしかないだろ?と。環境が変わってしまえば、いくら資源管理しても魚の生息環境に適さないのですから意味がありません。

>私は今、漁師を目指す暴挙w

 あらまぁ、なんと物好きな・・・いえいえ。日本の漁業を良くしてくださいな。


Flagship
2011/10/03 07:18

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